コラム 2023年6月号 上肢障害の労災認定について
2023年06月1日 コラム
厚生労働省では、労働者に発症した上肢障害を労災として認定する際の基準として「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準」を定めています。
今回は、上肢障害の労災認定について厚生労働省より具体的例があげられていますので紹介します。
○上肢障害とは
腕や手を過度に使用すると、首から肩、腕、手、指にかけて炎症を起こしたり、関節や腱に異常をきたしたりすることがあります。 上肢障害とはこれらの炎症や異常をきたした状態を指します。
《上肢障害の労災認定の要件》
腕や手を過度に使用する機会は、仕事だけでなく家事や育児、スポーツといった日常生活の中にもあります。また、上肢障害と同様の状態は、いわゆる「五十肩」のように加齢によっても生じます。
労災と認定されるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
①上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること
※上肢等とは、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指をいう
②発症前に過重な業務に就労したこと
③過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められること
○「上肢等に負担のかかる作業」とは
①上肢の反復動作の多い作業
♦︎パソコンなどでキーボード入力をする作業
♦︎運搬・積み込み・積み卸し、冷凍魚の切断や解体
♦︎製造業における機器などの組立て・仕上げ作業、調理作業、手作り製パン、製菓作業、ミシン縫製、アイロンがけ、手話通訳
②上肢を上げた状態で行う作業
♦︎天井など上方を対象とする作業
♦︎流れ作業による塗装、溶接作業
③頸部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業
♦︎顕微鏡やルーペを使った検査作業
④上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業
♦︎保育・看護・介護作業
※①〜④に類似した作業も「上肢等に負担のかかる作業」に該当することがある
○「相当期間従事した」とは
原則として6か月程度以上従事した場合をいう
○「過重な業務に就労した」とは
発症直前3か月間に、上肢等に負担のかかる作業を次のような状況で行った場合
♦︎業務量がほぼ一定している場合
同種の労働者よりも10%以上業務量が多い日が3か月程度続いた
※同種の労働者とは、同様の作業に従事する同性で年齢が同程度の労働者を指す
♦︎業務量にばらつきがあるような場合
①1日の業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた(1か月間の業務量の総量が通常と同じでもよい)
②1日の労働時間の3分の1程度の時間に行う義務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた(1日の平均では通常と同じでもよい)
なお、過重な業務に就労したか否かを判断するに当たっては、業務量だけでなく、次の状況も考慮する
●長時間作業、連続作業 ●過度の緊張
●他律的かつ過度な作業ペース ●不適切な作業環境
●過大な重量負荷、力の発揮
○上肢障害の代表的疾病
・上腕骨外(内)上顆炎 ・手関節炎 ・書痙
・肘部管症候群 ・腱鞘炎 ・回外(内)筋症候群
・手根管症候群
『上肢障害の労災認定事例』
①事務職員が、腱鞘炎を発症
Aさんは入社後2年間、パソコンで顧客情報などを入力する作業に従事していた。肘から指先にかけてしびれと痛みを感じ、医療機関を受診したところ「腱鞘炎」と診断された。
【判断】
発症直前の3か月間、Aさんと同じ作業を行う同僚の1時間の平均入力件数が約80件だったのに対し、Aさんの入力件数は1時間約100件だった。
Aさんの業務量は同種の労働者と比較しておおむね10%以上多かったため、過重な業務に就労していたとして労災認定された。
②作業療法士が、上腕骨内上顆炎を発症
作業療法士のBさんは、患者のリハビリを補助する作業に5年間従事していた。右腕に痛みを感じ、肘の屈伸などの運動が困難となったことから、医療機関を受診したところ「上腕骨内上顆炎」と診断された。
【判断】
Bさんの同僚の作業療法士が急に退職し、それまでは1日平均約12人の患者を担当していたのが、発症直前の3か月には1日約20人を担当する日が毎月10日以上あった。そのため、過重な業務に就労していたとして労災認定された。
※厚生労働省 労災補償関係リーフレット参照
このように、具体的例をあげられていますので、参考にされてください。